幅広い領域で大きな注目を集めている IoT。各種デバイスやセンサーから収集されたデータを分析することで、さまざまなイノベーションが実現できると期待されています。このイノベーション創出を加速するクラウド プラットフォームとして、「Red Hat JBoss BRMS on Azure」を 2016 年 8 月に発表したのが SCSK株式会社 (以下、SCSK) です。
それではなぜ IoT で JBoss BRMS を活用しているのでしょうか。そしてそのシステム基盤として Microsoft Azure を採用した理由は。このソリューションを担当するプラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 ミドルウェア部 第二課の富杉 正広 氏と加藤 順昭 氏にお話をお聞きしました。
写真左より、SCSK株式会社 プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 ミドルウェア部 第二課 富杉 正広 氏、SCSK株式会社 プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 ミドルウェア部 第二課 加藤 順昭 氏
2016 年 8 月に発表した「Red Hat JBoss BRMS on Azure」の概要
―― SCSK は 2016 年 8 月に、「Red Hat JBoss BRMS on Azure」を発表しました。まずはこのプラットフォームがどのようなものなのか、お教えください。
富杉 これは、SCSK の IoT プラットフォームと Red Hat JBoss BRMS、Azure を組み合わせることで、各種デバイスやセンサーから送られてくるデータのフィルタリング、蓄積、分析、見える化を可能にする IoT クラウド プラットフォームです。
―― IoT プラットフォームに BRMS (Business Rule Management System) を組み込んでいるのはなぜですか。
富杉 IoT では膨大なデータを集めてビッグ データとして活用したいというニーズが高く、データ収集、蓄積、分析のツールはさまざまなところから提供され始めています。しかしデバイスやセンサーから送られてくるデータの中には、明らかに使えないゴミのようなデータも存在します。これを蓄積して分析しても、ノイズが大きくなってしまい、的確な分析をタイムリーに行うことが難しくなります。この問題を解決するには、ルールに基づいてリアルタイムでデータをフィルタリングすることが必要です。現在の JBoss BRMS には複合イベントをフロー型で処理できる CEP (Complex Event Processing) エンジンが追加されているため、このような処理に最適だと判断しました。
―― CEP エンジンを搭載しているから、JBoss を採用したというわけですね。
加藤 技術的にはそうですが、もう 1 つ重要な理由があります。それはレッドハット社が提供している製品だということです。レッドハット製品はエンタープライズ市場で高い実績を持っており、サポートも提供されています。そのためオープンソースではありますが、ベンダー製品と同様に安心して活用できます。SCSK は、JBoss がこの分野のデファクト スタンダードになると考えており、2009 年に国内最初の JBoss Premier Business Partner としての活動を開始、2011 年から Red Hat JBoss BRMS 製品を利用したシステム構築を多数行ってきました。私たちが所属するミドルウェア部 第二課では、レッドハットは最も大きなウェイトを占める最重要パートナーに位置付けられています。
システム基盤として Azure を採用した理由
―― IoT のデータ フィルタリングで JBoss BRMS がデファクト スタンダードになると評価したうえで、それを動かす基盤として Azure を採用されたと。
加藤 そうです。SCSK はマイクロソフトとも戦略的な提携を行っており、2015 年 3 月にはハイブリッド クラウド戦略強化を目的に、SCSK のクラウド サービス「USiZE (ユーサイズ)」のラインアップに Azure を追加しています。これはシステム監視など、SCSK 独自の付加価値サービスを組み合わせたリソースの提供をするものであり、既に多くの企業にご利用いただいています。SCSK は複数のクラウド サービスを取り扱っており、Azure もその中の 1 つの選択肢という位置付けになりますが、「JBoss on Cloud」の中で最初に採用したクラウド サービスは Azure です。
―― ここで最初に Azure を選ばれた理由は。
富杉 実は JBoss を Azure 上で動かそうという話は 2015 年春ごろからあったのですが、これが本格的に動き出した最大の理由は、レッドハット側から「マイクロソフトと協業したので Azure 上で JBoss を動かしてみませんか」という話をいただいたことです。
加藤 2015 年 11 月に発表されたマイクロソフトとレッドハットの OSS 分野での協業は、この業界にとって大きな転機になると感じました。SCSK もぜひこの流れに乗ろうと考え、レッドハットからの提案を受けることにしたのです。JBoss をサービス化して販売する契約も以前からレッドハットと締結していましたが、2016 年 7 月には Azure 上で JBoss を動かして再販できる契約も追加しています。
―― 実際に JBoss を Azure 上で動かしてみて、どのような印象をお持ちになりましたか。
富杉 スピード感とスケーラビリティが非常に大きいと感じました。IoT 分野で活用するうえで、これは重要な特長だといえます。IoT はバズワードのような感じになっており、お客様からお話をいただいた時、何をすべきなのか明確でないまま案件が進むことが少なくありません。ここでスピード感があるシステム基盤が利用できれば、まず試しに何かやってみてから方向転換を行う、といった取り組みを進めやすくなります。また試行がうまくいって規模を拡大する場合でも、IoT はキャパシティ プランニングが非常に難しいのですが、システム基盤がスケールしやすいものであればスムーズに対応できます。
―― 実際に Azure をどのように使っていますか。
富杉 JBoss に関しては Azure を IaaS として活用し、仮想マシンを立ち上げて RHEL を載せ、その上で JBoss を動かしています。その一方でデータ蓄積では Azure SQL Database など、PaaS の機能を活用しています。
JBoss on Azure がもたらすメリット
―― JBoss と Azure を組み合わせた IoT プラットフォームは、どのようなメリットをもたらしますか。
加藤 まず JBoss BRMS によって、トライ アンド エラーが行いやすくなります。最適なフィルタリング方法を見つけるには、数多くのトライ アンド エラーが必要になりますが、フィルタリング システムをフルスクラッチで構築するとそのたびにコード修正が必要になります。しかし JBoss BRMS であれば、ルールを変更するだけで対応可能です。これによって 2 ~ 3 割は効率化できるはずです。
富杉 さらにこれを Azure に載せることで、必要なリソースの調達も容易になります。IoT ではどれだけのサーバーが必要になるのか予測が難しいのですが、Azure なら簡単に仮想マシンを増強できます。また他の Azure のサービスと連携しやすくなるのも、大きなメリットです。Azure には IoT Suite が用意されていますが、これと連携すれば短期間で IoT ソリューションを実現できます。またデータ分析も Power BI などを利用できます。
―― お客様からの引き合いは。
加藤 既に 4 件の引き合いがあり、具体的な話を進めています。
―― どの業界が多いのですか。
加藤 1 件は製造業のお客様で、車両を運搬する重機にセンサーを取り付け、稼働状況を分析したいというお話をいただいております。
―― このソリューションに対するお客様の反応は。
加藤 このソリューションにご興味を持たれているお客様は少なくないようで、すでに数多くのお問い合わせをいただいております。
今後の取り組みとマイクロソフトへの期待
―― 最後に、今後予定されている取り組みについてお教えください。
加藤 JBoss on Azure をテーマにしたセミナーを 2017 年 2 月から開催する予定です。第 1 回は東京で行います。また、SCSK 社内では営業部門を対象にした社内セミナーを行っています。販売パートナーに対するメッセージアウトも、これから積極的に展開していく計画です。その一環として、BRMS をキーワードにしたプロモーション サイトの立ち上げを進めており、2017 年 2 月にオープンする予定です。この中のソリューション コーナーで、 JBoss on Azure の紹介を行うことにしています。
―― マイクロソフトに期待したいことは何かございますか。
富杉 Azure はとてもよくできたクラウドだと思います。私たちはもともと Linux 使いなので、グラフィカルなインターフェイスよりも CLI を好む傾向がありますが、最近では CLI の拡充も進んでいるので、これをぜひ活用したいと考えています。ただ新機能の良さが、まだまだ知られていないのではないかと感じることもあります。もっと積極的にアピールして、より多くのユーザーに活用してもらった方がいいと思います。
加藤 繰り返しになりますが、マイクロソフトとレッドハットの協業発表は、エンタープライズ市場において本当に大きなトピックです。両社とも長年にわたってエンタープライズ市場のプレイヤーとして活躍してきており、企業にとって安心して導入できる製品を提供しています。そういう意味でマイクロソフトとレッドハットは立ち位置の近い IT 企業であり、親和性の高い関係にあると言えます。以前のマイクロソフトは Windows 中心というイメージでしたが、今では OSS に力を入れており、ビジネスでも Windows から Azure へと大きく舵を切りました。今後もぜひこの方向を維持しながら、エンタープライズ市場を牽引してほしいと思います。
―― 本日はありがとうございました。
住商情報システム株式会社と株式会社CSK の合併によって、2011 年 10 月に発足したシステム インテグレーター。システム開発から IT インフラ構築、IT マネージメント、BPO (Business Process Outsourcing)、IT ハード/ソフト販売まで、ビジネスに求められるすべての IT サービスをフル ラインアップで提供し、ビジネスの新価値創造とグローバル展開をサポートしています。