いまや世の中には様々な種類のクラウド サービスが溢れています。ファイルの置き場からコミュニケーションツール、データの加工や管理など便利なものが多くあります。一般消費者の個人向けに提供されているものの多くは無料で提供されています。一方、企業向けクラウドサービスというカテゴリのサービスでは、企業向けに有料サービスとして提供されています。ユーザーが利用できる機能はぱっと見た目には両者であまり違いがあるように見えません。それでは、なぜ企業向けクラウド サービスというカテゴリが存在するのでしょうか。クラウド サービスは無料があたりまえで有料で提供するモデルは古いのでしょうか。今回は、このような疑問にお答えしたいと思います。
一般消費者向けクラウドの特徴
収益モデルと利用規約、プライバシーポリシー
一般消費者向けクラウドは無償で提供されているものが多くありますが、その背後にはそれでビジネスが成り立つモデルが存在しています。企業は慈善団体ではありませんので、儲けなしでサービスを提供しているわけではありません。その裏には儲かる仕組みがあるのです。
クラウドベンダーは、一般消費者向けクラウドにおいて「広告」もしくは「フリーミアム」またはその組み合わせによって収益を得ています。「フリーミアム」は、一部の会員だけが費用を負担するモデルであり、たとえばゲームを始めるときは無料だが、ストーリーを進めて行ったりいい武器を買ったりするのにお金がかかり、そこまでするのは一部の優良会員だけだが、それにより収益を得ている仕組みです。
「広告」は、文字通り他の企業にスポンサーになってもらって広告を出してもらい、その料金で収益をあげるモデルです。ただし、今の時代は広告をマスメディアのようにすべての人に一様に垂れ流すのではなく、さまざまな情報にってターゲティングを行うこ���により、効率が格段にいい仕組みを使っています。一見、ユーザーからは何も支払っていないように見えますが、実はターゲティングを行うに当たって、クラウドベンダーはユーザーの個人情報やデータを利用していることがあります。その方がより適切なターゲットに広告を届けることができ、広告メディアとしての競争力があがるからです。つまり、大雑把にいうと「ユーザーは自分の個人情報やデータを切り売りすることで無償の一般消費者向けクラウドを利用している」ことになるわけです。これで一般消費者向けクラウドサービスを「タダ」で利用しているわけではないことがお分かりになったでしょうか。
自分の情報が実際に切り売りされているかどうかは、サービスの「利用規約」や「プライバシーポリシー」を見れば知ることができます。重要なデータを扱う場合は必ず利用規約とプライバシー ポリシーをチェックしましょう。
情報が世界中と共有されてしまう可能性がある
もうひとつ、一般消費者向けクラウドを利用するにあたって気を付けるべきことがあります。それは、情報共有の範囲が全世界のユーザーに及んでしまうことがあるということです。もちろん、情報をアップロードするときは、通常アクセス権の範囲をコントロールすることができ、情報を公開するのか、セキュリティをかけるのかを選ぶことができます。ここでポイントになるのは、「重要な機密データを扱う場合、操作方法によっては全世界のユーザーに情報漏洩してしまう可能性がある」ということです。注意深く操作をすればそんなことにはならないかもしれません。しかし、あなたは大丈夫かもしれませんが、組織において5 人、10 人、20 人、と人が集まってきた時に、コンピューターのリテラシーも様々なレベルの人がいることでしょう。悪意がなかったとしても、うっかり間違った操作で大事な情報を公開してしまう可能性がある、ということも考慮しなければなりません。
企業向けクラウドの特徴
有料だが一般消費者向けにはない企業向けの安心安全が付属
それでは、次に企業向けクラウドについて見ていきましょう。企業向けクラウドでは、一般消費者向けクラウドで行っていたような「広告」「フリーミアム」といった収益モデルではなく、会員から費用を取る有料モデルを採用しています。このため、ユーザーの個人情報やデータをクラウドベンダーが活用する必要がないため、これらの情報は安全に守られます。サービスの「利用規約」や「プライバシー ポリシー」を見ると違いが分かるかと思います (※ ただし、クラウドベンダーによっては一般消費者向けクラウドと企業向けクラウドの両方を提供しており、共通の利用規約やプライバシー ポリシーを設定している場合がありますので注意が必要です)。マイクロソフトでは一般消費者向けクラウドと企業向けクラウドで異なる利用規約を設定しています。また、いずれのサービスの場合も「お客様のデータはお客様のものである」という定義がなされています。
加えて、企業向けクラウドが一般向けクラウドと異なる点として、サービス稼働率を保証するための「サービスレベル契約 (SLA)」が設定されていることが多いことです。 いくら便利なサービスであっても頻繁に停止してサービスが利用できなくなるようでは、業務に支障が出てしまいます。Microsoft Office 365 の場合は、「99.9% の稼働率を保証する返金制度のあるサービスレベル契約」が設定されており、稼働率 99.9% を下回った月はサービス料金の返金処理が行われます。また、サービス停止を防ぐために、Microsoft Office 365 の場合は標準で 2 拠点のデータセンターを利用して、さらにその中でクラスター構成を取って、たとえ一部のサーバーが稼働を停止してもサービスに影響なくほかのサーバーや拠点に切り替わることで、データを失うことなく稼働し続けるといった仕組みをとっています。このように、ストレージやサービスのインフラそのものにかける注意も変わってくるわけです。
情報公開範囲は管理者が管理できる
加えて、企業向けクラウドが一般消費者向けクラウドと大きく考え方が違うのは、「管理者が中心にいて、ユーザーの利用方法は管理者がすべてコントロールできる」ということです。 一般消費者向けクラウドを利用する場合は、うっかりミスを管理者が防ぐことはできません。また、機能によっては悪意があるユーザーが使った場合、もしくは悪意がなくてもうっかりミスで情報漏えいをしてしまう可能性があるものがありますが、そのような機能だけ利用禁止を強制することもできません。企業向けクラウドであれば、管理画面でポリシーの設定や機能の ON/OFF の制御を行うことで、適切な利用ポリシーを設定することができるのです。また、一般消費者向けクラウドと異なり、情報共有の最大限の範囲は組織全体にとどまるため、誤操作をした時の被害も最小限にとどめることができます。
法人・団体で企業向けでなく一般消費者向けクラウドを企業で使ってしまった場合のインパクト
一般向けクラウドと企業向けクラウドの考え方の違い、そこからくる仕組みの違いについてご理解いただけたものと思います。企業向けクラウドを利用すれば、ユーザーの利用方法について管理者が中央から管理、制御することができるため、組織化された形でリスク管理を行うことができるのです。これがきちんとできるかどうかは企業の信頼度に影響してきます。たとえば、クラウドを利用していても「プライバシーマーク」などの認証を受けることは可能です。日本マイクロソフトでも、「国内外のデータセンター (自社、委託)の利用」「米国本社が定めた統一セキュリティポリシーでの運用」という環境下においてプライバシーマークの認証を取得しています。ただし、この場合に利用するクラウドは「企業向けクラウド」であり、「一般消費者向けクラウド」の利用は一定以上の機密情報の場合、自社の一般消費者向けクラウドであっても利用が禁止されています。逆に言うと、きちんとした運用基準を設けて利用すれば、企業向けクラウドを利用する場合であれば企業としての信頼度を満たすデータ運用が可能である、ということになります。
単純に無料と有料の違いだけではない「一般消費者向けクラウド」と「企業向けクラウド」の利用、この機会にあなたの組織でも利用の仕方を再検討してみてはいかがでしょうか。